個人情報保護方針


 

経営講座の第150目です。
                            経営講座バックナンバー
取締役の解任

Q 当社には3名の取締役がおり、それぞれ、会長、社長、専務という肩書
きがついています。会長と社長は親子であり、専務はもともと従業員だっ
者です。ただ、会長と専務の仲があまり良くなく、連携して職務にあたる
ことができていません。専務は、仕事はよくできるのですが、会長が
従業員を役員にすることを快く思っていなかったこともあり、「役員と
従業員の仕事は違う」と不満があるようです。会長は当社の唯一の株主
であり、専務を任期の途中で役員から外すことも考えているようなの
ですが、可能なのでしょうか。

A 会長が唯一の株主ということであれば、役員から外すことも可能です
。ただし、注意点があります。

解説
1.取締役の解任に関する
会社法という法律で、「取締役は株主総会の決議によって選ばれる
(選任される)」と決められています。ただし、いったん選ばれればその
後ずっと取締役としての地位があるわけではなく、任期が定められて
います。会社法上の原則の任期は2年ですが、それより長い任期とする
ことも可能です。任期が終われば取締役ではなくなるため、再度取締役
に就くためには株主総会で改めて選任されなければなりません。もっとも
、「取締役は株主総会の決議によっていつでも辞めさせる(解任)ことが
できる」と、会社法に定められています。「いつでも」というのは、
「任期中でも」というタイミングを問わないということに加えて、理由を
問わないことも意味します。つまり、株主総会で解任の決議が成立
すれば、それだけで取締役はその立場を失うということです。したがっ
て、ご質問の場合、株主総会を開き、唯一の株主である会長が株主
としての立場で専務の解任を決議すれば、それによって専務は解任
されます。このように、取締役は株主総会決議によっていつでも解任
できます。しかし、解任に正当な理由がない場合、解任された取締役
は会社に対して損害賠償を請求することができます。正当な理由が
ないとされた場合でも、解任そのものに影響はなく、解任された取締役
が復帰するということはありません。しかし、損害賠償をめぐって解
任した取締役とのトラブルに発展する可能性があるため、注意する
必要があります。
2.解任の正当な理由
どのような事情があれば正当な理由があるとされるのか、明確に決ま
っているわけではありま せん。裁判になれば、最終的には様々な事情
を考慮したケースバイケースの判断ということになり ます。もっとも
、取締役が果たすべき役割を考えたときには、正当な理由と認められ
やすい一定の類型があります。取締役の役目は、会社の業務を決定
し遂行することです。つまり、会社がどのように事業を進めていくのか
具体的な方針を決め、それに沿って事業運営を行うことが取締役の
役割なのです。このような役割からすると、十分な事業運営ができない
状態に陥ったときには、解任の正当な理由が認められやすいといえ
ます。例えば、病気や怪我などによって職務を継続することができ
なくなった場合がその典型といえるでしょう。また、法令に反する違法
な事業運営をしたり、不適切な職務の執行をした場合なども、取締役
の役割を果たしていないといえるでしょう。さらに、そもそも経営能力
がないといったケースも、正当な理由として認められる可能性が
あります。ご質問の場合、専務は仕事が良くできるとのことですので
、これらには当てはまらないかもしれません。 ただ、会長が言う
「役員と従業員の仕事は違う」ということが正しく、取締役として経営
能力に欠けるのであれば、正当な理由が認められる余地はあります
。この点を判断するためには、専務の職務執行状況を細かく把握
する必要があります。そのため、解任に対する専務の反論や法的な
トラブルに備えるという意味でも、これまでの働きぶりを含め、専務の
業務内容や業績等を確認・整理すべきといえます。
3.他の取締役との関係
では、ご質問にある、「会長と専務の仲が悪い」という事情は、正当な
理由として認められるのでしょうか。取締役間の不仲は、基本的に解任
の正当な理由にはならないと考えられています。それは、不仲である
ことと、取締役本人が取締役としての役割を全うできるかどうかという
点に関連がないから です。現実には、取締役間の仲が悪いことで、
連携が取れなくなったり、従業員に対して矛盾した指示が出されたり、
迅速な判断・決定ができなくなったりと、様々な弊害が生じることが
考えられます。しかし、そのような問題が生じているのであれば、
それは取締役同士が歩み寄ったり、話し合いをしたりすることで解消
すべきです。したがって、事業運営に何らかの支障が出ているとしても
、単に不仲というだけで取締役を解任することは難しいでしょう。
もちろん、それが取締役としての経営能力の欠如の表れであれば、
正当な理由が認められる可能性もあります。ご質問の場合もその点を
見極めることが必要となるでしょう。また、社長が、もう1人の取締役
として、会長と専務の仲を取り持つということも考えられます。実際の
裁判でも、不仲となった取締役間の関係修復に向けた動きを何も行わ
なかったことが、 正当な理由が認め られない理由の1つとされた事例
があります。会長と社長は親子であり、かつ、会長が唯一の株主 で
あることから、社長は会長の肩を持ちたいと考えるかもしれません。
しかし、できる限り中立的な立場で関係修復に向けてアクションする
ことが重要です。なお、このように、解任には複雑な判断が必要で
あるため、事前に弁護士に相談しておかれることをおすすめします。