個人情報保護方針


 

経営講座の第149目です。
                            経営講座バックナンバー
変形労働時間制の導入

Q 新しい事業分野に進出することとなり、それにあわせ、社内に新部署を
設立する計画となっています。ただ、新規事業ということもあり、発足
してからしばらく、その部署に所属する従業員は不規則な勤務となら
ざるを得ないと思います。仕事があるときは長い残業となり、反対に、
現在設定している定時までの仕事がない時期が生じることも予想され
ます。そのため、年間を総合すれば今とあまり変わらない労働時間に
なるとは思うのですが、残業代の支払いがかさんでしまうことを懸念
しています。変形労働時間制を導入すればある程度解消できる問題
でしょうか。

A 変形労働時間制は業務量の波に対応するための制度ではありますが
ご質問の状況だと、導入してもメリットはあまりないかもしれません。
解説
1 変形労働時間制とは
変形労働時間制というのは、法定労働時間を考える際の単位を「変形」
させる制度です。法定労働時間とは、「1日及び1週間で働かせることの
できる原則的な最長の労働時間」のことで、労働基準法では1日8時間
・1週間40時間と、原則が決められています。これを超えて働かせた
時間(時間外労働と呼ばれます)に対しては、割増賃金(いわゆる
残業代)を支払わなければなりません。
この1日8時間・1週間40時間という法定労働時間のルールは、原則
として、1日と1週間という単位でしか考えません。例えば、ある日の
労働時間を6時間とし、その翌日(2日目)の労働時間を10時間とします。
この2日間の平均労働時間は8時間ですが、2日目の労働時間が1日
8時間を2時間超えており、その2時間を時間外労働としてカウントしな
ければなりません。これは1週間の場合でも同様であり、ある週の
労働時間が32時間、 その翌週の労働時間が48時間だとしても平均
を取ることはできず、8時間分の時間外労働が生じることとなります。
なお、基本的に、1日は「0時から24時(暦日)」を指し、 1週間は
「日曜日から土曜日までの7日間」のことを指します(1週間については
就業規則等で定めれば日曜日以外をスタートの曜日とすることも
できます)。この、「法定労働時間をカウントする単位はあくまで
1日・1週間であり、複数日・複数周を平均しない」というルールを
変更し、複数日複数週の平均を取れるようにする制度のことを、
変形労働時間制と呼んでいます。
2 変形労働時間制のメリット
このような変形労働時間制ですが、メリットは、「複数日・複数週の労働
時間を平均して40時間以内に収まっていれば、特定の日・特定の週に
おいて法定労働時間を超えることができる」というものです。先に挙げた
例でいえば、1日8時間を超えた2時間分や1週間40時間を超えた8時間
分を、時間外労働としてカウントする必要がなくなるということです。
時間外労働に該当しなければ、その分の割増賃金を支払う必要もあり
ません。そのため、業務の量に波がある場合、変形労働時間制の
導入により、結果として割増賃金の抑制につながる可能性があります。
3 変形労働時間制の種類
変形労働時間制では、複数日・複数週の平均を取ることができる期間
が決まっており、3種類用意されています。まず、期間が最も短いもの
として、1週間単位の非定型的変形労働時間制というものがあります。
この制度は、1週間の間でしか平均を取ることができないため、1日の
労働時間についてしか効果がありません。1週間の中で、労働時間の
長い日と短い日を作り、それらを平均して40 時間以内に収める制度
です。 ただし、適用できる職種等に限定があるため、一般的な制度
とはいえません。
次に、1か月単位の変形労働時間制という制度があります。これは、
1か月以内の労働時間を平均して、1週間の労働時間が40時間以内
に収まるようにする制度です。
最後に、期間が最も長い制度として、1年単位の変形労働時間制が
あります。これは、 1か月を超える1年以内の期間を平均して、1週間
の労働時間40時間以内に収めるようにするものです。
※1か月単位・1年単位については、1か月・1年という呼ばれ方をして
いますが、それ以内(例えば、2週間・4か月)であれば構いません。
ご質問の場合、1か月の中で労働時間(業務量)を調整できるので
あれば1か月単位の変形労働時間制を導入することも考えられます。
1か月を超える範囲でしか調整できないのであれば、1年単位の変形
労働時間制を検討する必要があります。
4 変形労働時間制導入の条件
変形労働時間制を導入すると、多かれ少なかれ、従業員の勤務は
不規則になります。 そのため、変形労働時間制の導入にはいくつか
条件があります。また、平均を取ることのできる期間が長いほど
不規則になりやすいため、1年単位の変形労働時間制が最も厳しい
条件となっています。全ての条件を解説することはできませんが、
重要な条件として、1か月単位の変形労働時間制でも1年単位の
変形労働時間制でも、原則として、労働日(出勤日)とその労働日
における労働時間をあらかじめ特定しなければなりません。期間中
の勤務シフト表を作るイメージです。この、勤務シフト表で決めた時間
と実際に働いた時間がずれてしまうと、残業代が生じる可能性 が
あります。そのため、変形労働時間制のメリットを受けるためには、
業務量の波をあらかじめある程度予測しておく必要があります。
質問の場合も、業務の繁閑がどの程度予測できるのかによって、
形労働時間制導入に メリットがあるかどうかが変わってきます。
あまり予測できないのであれば、導入してもそこまで大きなメリットと
ならない場合があるため、慎重にご検討ください。