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経営講座の第148目です。
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経歴詐称を理由とする解雇

電半年ほど前に1名正社員を採用しました。もともと他社で管理職を
していた方で、前職での経験が魅力的であったことが採用の決め手
となりました。採用試験として、履歴書の審査と面接を実施したのです
が、実際に働いてもらうと、期待したような成果をあげることができて
いません。そのため、何度か本人と面談をしたところ、採用試験時に
伝えられていた容内の前職の経歴に一部虚偽があったことが判明
しました。当社の就業規則には、「経歴を偽って採用されたときには
懲戒解雇ができる」旨記載があり、懲戒解雇を検討しているのです
が、注意点を教えてください。

A 経歴詐称を理由とする懲戒解雇は一定の条件をクリアしないと
無効となる可能性があります。

経歴詐称を理由とする解雇
1懲戒解雇とは
解雇は、会社の判断で一方的に従業員との労働関係を終了させるも
のです。解雇を行う理由は、 従業員の能力不足や会社の経営状態の
悪化など様々ですが、従業員としてあるまじき行為(非違行為といい
ます)を理由とする解雇もあります。例えば、会社の金銭を横領した
、企業秘密を故意に外部に漏えいしたといったものです。このような
、非違行為を理由とする解雇を「懲戒解雇」と呼びます。懲戒解雇は
従業員への罰という意味合いを持っています。つまり、懲戒解雇の
場合、従業員としての立場を失うだけでなく、そこに非違行為をした
ことの罰であるという評価が加わります。その結果、通常の解雇より
も再就職が難しくなったり、会社によっては退職金の金額に影響が
あるなど、従業員が被る不利益が大きくなります。したがって、罰を
与えるに相応しいか否かが厳しく審査されることになるのです。
具体的には、懲戒という罰を与える事情があるか、具体的に行われ
た懲戒解雇が社会的に妥当か、といった点から判断されます。その
際、従業員が行った非違行為の内容はもちろんのこと、会社側が
それに対して講じた措置 (例えば、弁解の機会を与えたか)も考慮
される点に注意が必要です。
以上を踏まえ、以下では、ご質問にある経歴詐称を理由とした
懲戒解雇について、注意点を解説します。
2 経歴詐称と懲戒の事情
まず、経歴詐称が懲戒の事情として認められなければ、懲戒解雇
をすることはできません。「詐称」とは、事実と本人から会社に伝え
られた内容が異なっていることを指しますが、具体的な内容は様々
です。例えば、ご質問にある職歴に関するもののほか、新卒採用
において最終学歴を 偽るといったこともあります。裁判例等による
と、 従業員から伝えられた情報と事実との相違が全て懲戒の事情
として認められるわけではないようです。経歴詐称の中でも、重要
な経歴の詐称に限って認められるという傾向です。重要な経歴か
どうかは、採用までのやり取りや採用の理由、会社の採用基準、
従業員が実施している職務の内容や会社の事業内容といった
要素から判断されます。
ご質問の場合、問題となっている前職での経験が採用の決め手
とのことですので、重要な経歴と認められる可能性はあると思われ
ます。もっとも、裁判になれば、「なぜその経験が決め手となったの
か」まで説明する必要があります。しかも、基本的には、人員募集の
時点から基準となっていたことも証明しなければなりません。その
証拠は、必ずしも客観的なもの(例えば、実際の求人票)に限られ
ませんが、求人を出すに至った理由やその後本人を採用するまで
の経緯などを整理しておくことが重要といえるでしょう。
3 社会的に妥当か否か
重要な経歴の詐称と認められたとしても、懲戒解雇が社会的に妥当
でなければ、解雇は無効となります。妥当か否かを判断するための
要素としては、過去に同じような事案があった場合の会社の対応
(例えば、どのような処分を行なったか)や懲戒解雇に至るまでの
談だけでなく、前職での経歴に誤りがあったことについて、本人に
説明と弁解の機会を与えることが重要となってくるでしょう。また、
懲戒の理由となっている事情に対し、下された処分が重すぎる場合
も妥当ではないとされます。懲戒処分には、懲戒解雇だけでなく、
始末書の提出や出勤停止などいくつかあります。段階的に重い処分
につなげていくことが一般的であり、例えば、1回の遅刻に対して
いきなり 懲戒解雇という最も重い処分を科すと、相当ではないと
される可能性が非常に高いといえます。ただ、経歴詐称は採用
過程で生じるものであり、入社した後に繰り返されるということは
あまりありません。そのため、懲戒処分を段階的に課すということも
考え難く、経歴詐称の場合には最初から懲戒解雇が選択されるこ
とが多くあります。もちろん、先の通り、経歴詐称にも様々な 内容が
あるため、仮に重要な経歴詐称と判断されたとしても、懲戒解雇
では重すぎるとされる可能性がある点に注意しておく必要がある
でしょう。
4 注意点
経歴詐称を理由とする懲戒解雇が裁判で争われるケースの多くは
経歴を偽るつもりはなかった、実際の経歴と伝えた内容に違いは
あるかもしれないが重要な経歴詐称とはいえない、といったもの
です。特に、前職での経験はあくまで応募者本人が主観的に語る
ものであり、学歴など客観的に証明できるものとは異なります。
そのため、本人の認識や語り方によって会社側の評価がある程度
左右されることは避けられず、先のような主張が従業員側から出
されやすい 類型といえます。採用試験の時点で可能な限り正確な
情報を得ておくことはもちろんのこと、会社が求める人物像を適切
に応募者に伝えておくことも非常に重要といえるでしょう。