個人情報保護方針


 

経営講座の第143目です。
                            経営講座バックナンバー
Question
契約交渉破棄の責任

●質問
当社では自社オフィスの移転を計画しています。仲介の会社に物件を
見つけてもらい、その物件のオーナーとも話がまとまりそうな段階です。
ただ、自社でも独自に物件を探していたところ、別の候補があがって
きました。どちらの物件にするかはまだ判断ができていないのですが、
仮に、仲介会社に見つけてもらった物件を借りないこととした場合、
当社に何らかの法的責任はあるのでしょうか。

Answer
契約締結の前段階であれば、基本的に法的責任は負いにくいといえ
ます。ただし、注意点もあるため、解説をご確認ください。

解説
(1)契約締結の前段階に関するルール
契約は、成立するとその契約の当事者に対し様々な法的影響を与
えます。一方的に契約を解消することは基本的にできませんし、契約
内容に従った行動をしなければ、損害賠償責任を負うこともあります。
しかし、法的な効力はあくまで契約が成立した後に発生するものであり
、契約が成立する前の段階では、当事者は基本的に自由に行動でき
ます。交渉を進めるかどうか、最終的に契約を締結するかどうか、どの
ような条件で締結するかといったことは、交渉相手を気にすることなく
、自社の判断で決めて構わないということです。
ご質問に沿えば、いったん契約締結に向けた交渉を始めたからと
いって、契約を締結しなければならない義務が発生するわけではないと
いうことになります。言い換えれば、契約交渉を破棄したとしても、
それについて何らかの法的責任を負うことはないということです。
ただし、一般論としてはそうだとしても、契約交渉には様々な段階が
あります。物件を借りるというご質問のケースでいえば、候補を探索・
調査している段階、複数の物件のオーナーと連絡を取り賃貸条件を
確認している段階、借りたいと思う物件がある程度定まり条件を交渉
している段階、といったものです。契約交渉の初期の時点では、相手
も契約成立に対する期待はあまり持っていないと思います。しかし、
交渉が進むにつれ、「この契約は成立するだろう」と相手も期待する
ようになります。この期待は法律的にも保護されるべきと考えられて
いるため、相手が契約成立への期待を抱いているときに一方的に
交渉を破棄した場合、破棄した側は損害賠償責任を負う可能性が
あります。
この判断はケースバイケースであり、定量的・定式的な基準はあり
ませんが、考慮される事情を参考までに解説します。
(2)契約交渉の進捗状況
まず、先にも触れましたが、「契約交渉がどの段階にあったのか」と
いった事情は、大きく影響してきます。特に、主要な契約条項につい
ては当事者双方ですでに合意が形成されており、後は細かな調整を
残すだけの状態であったり、契約書の作成を残すのみとなっている
ような場合には、相手に契約成立への期待が存在すると判断され
やすいといえます。
ご質問にある「話がまとまりそう」という状況が、具体的にどのような
段階を指すのかが重要ということです。例えば、賃料について最後
まで交渉が続いており、合意に至っていないのであれば、まだ契約
成立について相手に期待が生じていないと判断される可能性もあり
ます。反対に、賃料や引き渡しの条件などについては合意に至って
おり、最終的な契約締結までにほとんど障害が残っていないような
状態であれば、相手方に契約成立の期待が生じていると判断され
る可能性が高いといえます。
(3)当事者の言動
また、契約交渉がそこまで進展していなくても、例えば、自社の社長
が「契約相手は御社で決まりですね」といったような発言をすれば、
やはり契約成立への期待を相手に抱かせたと判断される可能性
が高いでしょう。
他にも、契約締結後のために相手に何か準備をさせたような場合
も同様です。例えば、物件の賃貸借でいえば、自社が希望する
入居日に間に合わせるため、契約前にオーナ一に物件の整備を
させるといったことが考えられます。
別の視点では、契約交渉を破棄する(打ち切る)に至る際の行動も
問題となります。交渉の打ち切りについての交渉をどの程度行った
のか、打ち切る側が相手に対して破棄の理由や自社の状況等を
説明したのか、といった点です。
(4)交渉の経緯、経過
他の事情としては、どのくらいの期間、どのように交渉してきたのか
といったことも考慮されます。例えば、具体的に交渉してきた期間が
長ければ長いほど、一般的には、交渉を打ち切った場合の責任が
認められやすくなります。また、その契約で動くことになる金銭的な
規模の大きさも考慮されることがあります。さらに、現場レベルの
交渉に留まっていたのか、それとも契約締結の権限を持っている
者同士の交渉だったのかなども考慮されます。
(5)ご質問の場合
ご質問の場合も、上で挙げた事情を基本に、交渉にまつわる様々
な事情が考慮され、交渉破棄の責任を負うかどうかが判断されます。
契約交渉開始から現在までの経過を改めて詳しく確認することが
必要といえます。
また、契約交渉を打ち切るとしても、相手に可能な限り理由や事情を
伝え、納得を得るようにすることが、法的リスクの軽減という意味でも
重要です。