個人情報保護方針


 

経営講座の第142回目です。
                            経営講座バックナンバー
Question
副業者の労働時間管理

●質問
当社全体の業務量が減ってきており、人員が余剰となりつつあります。
今はまだ正社員のリストラや基本給のカットを考える段階ではないので
すが、残業時間の減少が続いている状態です。今までは正社員が掛け
持ちで他の仕事をすることはなかったのですが、今後は残業していた
時間に他で働く者が出てくる可能性もあると思っています。会社に知ら
せずに掛け持ちされるよりは、事前に教えてもらって管理をしたいの
ですが、どのような点に注意すべきでしょうか。

Answer
正社員でも副業・兼業をする人が増えてきていますが、それに合わせ
た法整備は進んでおらず、現行の法律のルールの中で行う必要が
あります。
●解説
(1)副業・兼業の意味
副業・兼業という言葉に法律上の定義はなく、また、副業と兼業が明確
に区別されて使われているわけでもありません。そのため、実際に行わ
れる副業・兼業には様々なパターンが考えられます。例えば、短時間の
バイトをいくつかの会社で行う、正社員が休日を利使用してフリーランス
として働く、反対に、主にフリーランスとして活動している人がその仕事
を残したまま会社に雇われるなどです。
どのような副業・兼業の形態であっても一定の法律的な問題は生じます
が、典型的なものは働く時間に関するものです。特に、複数の会社に雇
われて副業・兼業を行う場合、労働基準法上の労働時間規制が本業
にも副業にも適用されるため、複雑な労働時間管理が必要となってき
ます。 そこで、この記事では、ご質問内容も踏まえ、すでに正社員とし
て自社で働いている人が他の会社に雇われて働く」という場面を指して
、副業という言葉を使うこととします(副業と兼業とは区別しません)。
なお、正社員としての仕事は「本業」と表現します。
この意味での副業が行われる場合、法律上重要な特徴として、まず、
「1本業、副業ともに雇用の形態で行われる」という点が挙げられます。
つまり、先に述べた、複雑な労働時間管理が求められるということです。
さらに、「2 本業ですでに法定労働時間いっぱいまで働いている可能性
が高い」という点が挙げられます。そのため、副業での労働は時間外
労働となる可能性が高く、労働時間のカウント方法や割増賃金の計算
・支払いも問題となってきます。従業員が副業をする場合にはこれらに
対応しなければならないため、解説していきます。
(2)労働時間の通算
労働基準法では、他社で働いた時間も通算されると定められています。
そのため、法定労働時間に関する規制や、割増賃金も含め、実際の
労働時間(実労働時間) に関する規制については、本業と副業の所定
労働時間及び実労働時間を合計しなければなりません。
(3)所定労働時間の通算
法定労働時間というのは、1日及び1週間で働かせることのできる最長
の労働時間を意味します(原則は1日8時間週40時間)。これを超える
労働は時間外労働となり、36協定の締結等、特別な手続きが必要と
なります。
ご質問に沿った例として、自社の所定労働時間が8時間で副業先の
労働時間が3時間というケースを検討してみます。この場合、所定労働
時間の合計が11時間となり、原則の法定労働時間を超えてしまいます。
この際、時間外労働となるのは、時間的に後から採用された(労働契約
を締結した)会社での所定労働時間です。ご質問の場合は副業先が後
ということになるでしょうから、 副業先が36協定等の手続をとる必要が
あります。
(4)所定外労働時間の通算
もっとも、従業員が副業をしているかどうかに関わらず、多くの会社には
もともと36協定が存在しています。そのため、主に問題となるのは所定
労働時間外の労働が実際に生じた場合の扱いです。特に、法定労働
時間をも超える労働(時間外労働)が実際に行われた場合に、自社と
副業先のどちらが割増賃金を支払うのかという点が重要です。
先程の例において、自社と副業先で所定労働時間通り働いたとします
。「所定労働時間は労働契約の締結順に通算する」というルールは
ここでも同じです。その結果、副業先での3時間分の労働が時間外
労働となり、その労働をさせた副業先が3時間分について割増賃金
を支払います。
次に、同じ例で、自社で9時間働き、副業先で4時間働いたとします。
この場合、自社・副業先ともに所定外労働が生じていますので、所定
労働時間を通算しただけでは不十分です。この場合、所定労働時間
の通算に加え、所定外労働の時間数も通算します。ただし、所定外
労働の時間数は労働契約の締結順ではなく、実際に所定外労働が
行われた順番に通算します。自社で働いた後、副業先で働いたので
あれば、自社の1時間の次に副業先での1時間を足します。その結果、
所定労働時間の通算により生じている3時間に所定外労働時間を通算
した2時間を加えた、 合計5時間が時間外労働としてカウントされるこ
ととなります。このうち、自社で働かせたのは1時間であり、その分の
割増賃金を自社が支払わなければなりません。
(5)労働時間の把握方法
このように、副業を実施する際には、副業先の所定労働時間と副業先
で実際に働いた時間を把握しなければなりません。把握の仕方として
は副業先に教えてもらうことが確実ですが、厚生労働省が出している
副業に関するガイドラインによると、そこまでは求められていません。
従業員からの自己申告によって把握することで構わないとされています
。さらに、従業員の申告した労働時間が実際の労働時間とは異なる
虚偽のものだとしても、申告に従って通算することとなります。なお、
仮に、従業員から申告がなかった場合には、労働時間を通算する
必要がないともされています。
ただ、長時間労働による従業員の健康への懸念等も考慮すると、でき
るだけ正確な時間把握が望ましいことは言うまでもありません。この点
も含め、副業についての仕組みの整備はまだ発展しておらず、また、
上で解説したルールはあくまで概要にとどまります。厚生労働省が出
しているガイドライン等を参考に、慎重に対応する必要があると言える
でしょう。