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経営講座の第131回目です。
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Question
従業員が起こした事故の責任

●質問
当社は運送業であり、当社所有の車両が日々運行しています。 運転手
には安全運転を心がけるよう指導していますし、乗務前のアルコール
チェックなど、必要な準備は欠かさず行っています。ただ、車両に任意
保険をかけておらず、万が一事故が起こった場合の責任が心配です。
任意保険をかけていないことで生じるリスクを教えてください。

Answer
従業員が起こした交通事故の責任を会社が負わなければならない場合
があり、その点が任意保険をかけていない最大のリスクです。
解説
(1)従業員が事故を起こした場合の損害賠償責任
従業員が業務中に社有車で交通事故を起こした場合、まず事故を起こ
した従業員が被害者に対して損害を賠償する責任を負います。これには
業務中かどうかといった点は関係なく、通常の交通事故と同様です。
これに加え、会社も被害者に対して賠償しなければなりません。これは、
使用者責任と呼ばれる制度があるためです。被害者は、事故を起こした
従業員本人と会社のどちらに対しても損害の賠償を請求することが
できます。どちらに請求するかは被害者次第であり、また、両方に同時に
請求することもできます。
(2) 自賠責保険でカバーできる範囲
もっとも、自賠責保険でも一定の損害はカバーできます。人の生命や
身体に損害が及んでいる、いわゆる人身事故に限られますが、ケガ
:最大120万円(1人あたり) 死亡:最大3000万円 後遺症:最大4000万円
までは自賠責保険から支払われます。ただ、特に被害者が死亡して
しまったケースではこの金額では不足することが多く、十分な内容とは
いえないでしょう。
(3)自賠責保険でカバーできなかった場合
自賠責保険から支払われる金額以上の損害を被害者が被った場合、
会社に対しても被害者から損害賠償請求が行われる可能性があります。
先程のとおり、請求されるかどうかは被害者次第であり、会社がコン
トロールすることはできません。そのため、ここからは、会社に請求が
行われた場合と直接の加害者である 従業員に行われた場合とに分け
て解説します。
(4)会社に請求が行われた場合
賠償を請求しても資金がなければ空振りになってしまうため、実際上、
会社に対して請求されることが多いといえます。 その際、会社は、被害
額全額(自賠責保険から支払われた分を除く)を被害者に支払う必要が
あります。したがって、裁判になれば、例えば直接の加害者である従業
員と折半になるといったことはありません。直接の加害者がほかにいて
も、会社が支払う賠償額には影響しないということです。ただし、会社が
実際に賠償金を支払えば、その分を従業員に対して請求することが
できます。そうしなければ公平とはいえないからです。 しかし、この
場合でも、支払った賠償金全額を請求できることはあまりありません。
会社は、従業員を雇って働かせることで事業を営み、利益をあげてい
ます。そのため、従業員が仕事中に起こした事故に関するリスクも、
会社が一定引き受けなければならないと考えられているためです。
したがって従業員に対する請求は、実際の裁判では会社が被害者に
対して支払った賠償金の2分の1や4分の1程度となることが一般的です。
(5)従業員に対して請求が行われた場合
被害者が直接の加害者である従業員に請求した場合も、基本的には
同様です。従業員は被害額全額を賠償することになります。そして、
こちらのパターンでも、従業員が実際に支払った賠償額について、会社
に請求することができます。このことは最近の最高裁判決で明確に
認められました。 したがって、会社としては、自社に請求がくるか従業
員に請求がくるかに関わらず、最終的には、一定の賠償を行なったのと
同じ結果になるということです。
(6)リスクヘッジ
以上を踏まえると、従業員が事故を起こした場合のリスク回避という
視点からは、やはり任意保険に加入することが最善といえます。被害額
全額をカバーする保険金が支払われれば、裁判に発展する可能性は
限りなく低くなります。そうなれば、会社から従業員への請求やその
反対について対処する必要もなく、事故の解決にかかる時間を短縮
することにもつながります。特に、事故対応は法律面(被害の賠償)だけ
でないことも考えると、賠償問題だけでも早期に解決できるメリットは
非常に大きいと思われます。