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経営講座の第125回目です。
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Question
配置転換の注意点

当社の事業所は今まで本社だけだったのですが、事業活動の範囲を広
げるため、他県に支店を出すことを検討しています。
その支店で勤務する従業員は、基本的に新規で地元の方を採用する
予定です。というのも、主な業務内容が外回りの営業となるため、土地勘
や親しみという点で望ましいと考えているからです。
ただ、営業職はそれでいいとしても、営業職を管理する者は本社から
派遣する必要があります。支社では管理職となるため、「誰でも」という
わけにはいかず、ある程度の経験と能力を持つベテラン社員にお願い
しようと思っています。
その基準に該当する候補者が数人いたのですが、どの候補者も配偶者
と子供をもつ従業員でした。また、本社と支社はかなり離れており、現在
の自宅から引っ越さずに通勤できる者は全社を見渡してもいません
でした。このような状況で、転勤を命じても構わないのでしょうか。
Answer
転勤を命じる場合には、業務上の必要性があることはもちろんのこと、
労働者の私生活への配慮も求められます。詳細は解説をご確認ください。

●解説
(1)転勤に関する法規制
労働基準法などの法律で、転勤を直接規制するものはありません。
しかし、転勤は、就労場所という労働契約の内容を変更するものなので
契約上の根拠が必要だとされています。
その根拠は通常、就業規則の「業務上必要がある場合は、従業員に対
し就業場所の変更を命じることがある旨の記載に求められます。
ただ、ご質問のように、事業所が1か所しかない場合、就業規則にこの
ような記載がないことがあります。その場合、就業規則を変更して記載を
追加するか、候補者から個の同意を得て転勤を実施することとなります。
就業規則の変更で行う場合、今まで転勤の可能性がなかったわけです
から、従業員にとって不利益な変更ということになります。そのため、
基本的には従業員の同意を得て変更する必要があります。ただし、同意
を得られない場合でも、就業規則の変更に合理性があれば、変更する
ことは可能です。特に、ご質問のように新しい事業所の設置を理由と
する場合、転勤が可能な内容に就業規則を変更する必要性が高く、
合理性は認められやすいといえます。
もっとも、従業員にとって軽微な変更というわけではないので、十分に
説明し理解を得ておくことが重要です。
(2)個別の同意を得て実施する場合
転勤を個別の同意を得て実施する場合、法律的な問題は生じにくいと
いえます。 もっとも、転勤命令の内容について説明が不足していたり、
転勤してもすぐに戻ってこれると勘違いさせてしまった場合などは
トラブルに発展する可能性があります。
ご質問の場合も、会社が転勤を必要している事情やなぜその人なのか
、転勤の期間の見込み、経済的補償の有無(単身赴任手当など)等の
内容を細かく伝え、同意を得ることが肝要です。
(3)就業規則の定めに従って実施する場合
転勤を命じる旨の就業規則の規定に従って転勤させる場合、本人の
同意は不要です。 しかし、次のような場合には、転勤命令が違法と
なるとされています。
1.転勤を命じる業務上の必要性がない場合
2.転勤を命じる業務上の必要性はあるが、不当な動機・目的をもってされ
た場合
3.業務上の必要性と比較し、本人の職業上・生活上の不利益が著しく
大きい場合このうち、ご質問の場合に問題になるのは3だと考えられ
ます。転勤を命じられることによって、単身赴任となったり、子供の
養育に支障が出るという不利益が生じるからです。
3について、どの程度の不利益であれば転勤命令が違法と判断されるか、
明確な基準が決まっているわけではありません。事案ごとの判断です。
ただ、過去の裁判例を見てみると、違法とされているのは、老齢の両親
や病気の親族などの介護・世話の必要性が高い場合です。単身赴任や
子供の養育を理由として、著しい不利益と認められた例は多くはありま
せん。 ご質問の場合も、業務上の必要性が高いということに加え、転居
せず支社に勤務できる従業員がいないということですので、転勤命令が
違法となる可能性は低いと考えられます。
ただ、最近では、ワークライフバランスに関する考え方の高まりに
よって、裁判所の考え方も労働者よりに変わってきています。その
ため、今後会社には、転勤の際に単身赴任や子供の養育について
考慮することが求められるようになると思われます。
例えば、単身赴任手当や帰省旅費といった経済的な補償のほか、候補
者を選ぶ段階から、転勤の影響が比較的少ない従業員を選ぶという
ことも重要となってきます。 ご質問の場合も、家族を連れ立って転勤
できる従業員を探したり、経験が多少乏しくても抜擢できる従業員が
いないか検討したりすることが望ましいといえます。
とはいえ、候補者の検討にも限度がありますし、家庭を持たない層ばか
りが転勤すると いうことになると不満にもつながります。そのため、
やはり基本は、業務上の適性を基準にベストと思われる従業員に転勤
してもらうことでしょう。転勤する本人との関係でも、なぜ自分が選ばれ
たのか、根拠を示された方が納得しやすいともいえます。 したがって、
就業規則の定めに従って転勤を実施する場合でも、本人への説明を
丁寧に行うことが重要といえます。