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経営講座の第124回目です。
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Question
賃金制度変更の手続き

当社は賃金制度の変更を検討しています。 現在、基本給は勤続年数に
応じて増額していく仕組みになっており、手当は通勤手当、家族手当、
住宅手当の3つがあります。そのほか、賞与は年2回、夏と冬に支給して
います。ただ、査定をしっかり行っているわけではなく、会社の業績が
悪くない限り、基本給の1.5か月分と固定しています。この現行制度では
従業員の働きぶりや成果を評価できないため、成果主義の要素を取り
入れた賃金制度にしたいと考えています。その際に必要な手続きを教え
てください。
Answer
賃金制度の変更は従業員に大きな影響を与えるため、慎重に進める
ことが求められます。詳細は解説をご確認ください。
●解説
(1)事前に確認すべきポイント
賃金制度の変更は、会社にとっても従業員にとっても大きなものです。
そのため、実際の変更までには段階を踏む必要がありますが、賃金
制度の内容を検討する前に確認しておかなければならないことがあり
ます。 それは、自社の賃金制度が何によって定められているかです。
まず、就業規則には基本的に賃金に関する定めがあるはずです。その
ため、就業規則は必ず確認しなければなりません。特に、手当に関して
は就業規則に全容が記載されていることが多いといえます。もっとも、
基本給の細かな査定項目や賃金テーブルといった具体的な内容まで
就業規則に記載している例は多くなく、それらは内規として運用されて
いる場合があります。そのような詳細は決めていないということもある
でしょう。
就業規則や内規以外に、従業員との個別の取り決め(契約)で賃金の
内容が決められていることもあります。個別の契約内容は就業規則と
同内容となっていることが多いですが、例えば、その従業員にしか出さ
ない手当があったり、その従業員だけ年俸制となっているということが
あります。 これらは形式的な違いというのみならず、法律的な意味合い
が異なります。そのため、個別契約、就業規則、内規のいずれに定め
られている内容を変更するのかによって、法律上必要な手続きも変わり
ます。そこで、個別契約と就業規則を変更する際に必要な手続きとを
分けて解説します。
(2)個別契約に定められている内容を変更する場合
個別契約では、賃金に関し、就業規則には記載されていない内容を取り
決めていたり、就業規則よりも良い条件となっていたりしているはず
です。そのため、就業規則の記載内容を変更しても、そのような個別
の契約内容は変更されません。したがって、変更しようと思え ば、
個別に合意を得ることになります。
(3)就業規則に定められている内容を変更する場合
次に、就業規則の変更についてです。 就業規則に記載されている賃金
制度の典型は、基本給・賞与と手当だと思います。そこで、これらに変更
について解説します。
・基本給、賞与の変更
基本給や賞与に関しては、支払日や昇給のタイミング、査定期間に関
することなどが定められていることが一般的です。ただ、先に述べた
とおり、基本給の決定要素や昇給・賞与の査定項目の詳細まで記載
されていることはあまり多くありません。例えば、「基本給は、能力、
経験等を勘案して決定する」、「昇給は、勤務成績等を勘案して決定
する」、「賞与は、会社の業績、貢献度等を勘案して支給する」
といったものです。
就業規則がこのような記載内容となっている場合、査定項目の詳細を
変更したとしても、就業規則を修正する必要はありません。反対に、
就業規則の記載の中に「勤務成績」が含まれていない場合に、勤務成績
を加味した基本給、昇給、賞与の決定を行いたいのであれば、就業規則
に追加する必要があります。 この追加は就業規則の変更に該当するため
、従業員代表の意見を聴いたうえで、労働基準監督署へ届け出なければ
なりません(常時雇用する従業員が10名未満であれば不要)。 また、より
重要な手続きは、「従業員の納得を得る」ということです。就業規則を
変更する際、法律的には、現状を不利に変更しないのであれば従業員
の同意を得ることは不要です。 基本給等を決定する要素の追加は、
それが直ちに従業員にとって不利であるとはいえない でしょう。
しかし、賃金は従業員にとって最重要であることを考えれば、仮に不利
にならない (基本給の額が下がらない)としても、十分な説明をすること
がトラブル回避のために肝要といえます。
・手当の変更
手当は、就業規則に支給条件が詳細に書かれていることが一般的です。
そのため、支給の条件を変更する場合でも就業規則を修正しなければ
なりません(上記と同様届け出も必要)。この変更も従業員にとって一概に
不利とはいえませんが、条件の変更によって手当が支給されなくなる従業
員からは個別に同意を得ることが基本的には必要です。 また、例えば、
ご質問にある成果給導入のため、既存の手当を成績によって変動する
歩合給に入れ替えるような場合、既存手当の廃止自体が従業員にとって
は不利益な変更となります。そのため、廃止される手当が支給されている
従業員については、個別の同意を得ておくことが無難です。
したがって、どちらの場合も手当が支給されなくなる従業員からは同意を
得ることが原則となります。ただ、今回は手当が支給されなくなるだけ
ではなく、成果主義的な賃金制度への移行とセットになっています。
そのため、賃金総額としてあまり大きく変動しないのであれ ば、個別の
同意までは不要となる可能性もあります。しかし、基本給の場合と同様
、説明をして納得を得ることが何より重要ですので、全従業員に対して
入念に説明することが求められるといえます。