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経営講座の第122回目です。
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Question
契約不適合責任

当社は製造業なのですが、ある取引先(仮に「A社」とします。)から今
まで作ったことの ない製品の製作を依頼されました。取引先と協力
しつつ、試作品が完成し、その質も上々 だったため、本格的な製造
を開始しました。先日、その製品を100個A社に納品したのですが、
A社が検品したところ、20個に基準を満たさない点があったとのことで
した。その20個は、確かに試作品よりは劣るのですが、製品が備え
ているべき最低限の性能は持っていると思います。A社からは、代替
品の納品を求められているのですが、応じなければならないのでしょ
うか。製造技術がまだ安定していないこともあり、仮に当社に責任が
あるとしても、今回は金銭で解決したいというのが本音です。

Answer
法律上はA社の要求に応じなければならない可能性があります。
詳細は解説をご確認ください。
●解説
(1)契約内容の確認
ご質問のようなケースでは、まず、契約内容を確認する必要があり
ます。契約によって、検品で何を確認することになっているのか、
不具合・不足があった場合はどのように対応するのか、などが決まっ
ていれば、それに従って対応することになります。
契約内容の確認は、契約書を作成していれば基本的にはそちらで
確認します。ただし、作成していないからといって確認ができないわけ
ではなく、契約締結までのやり取りや、話の内容などから確認すること
も必要です。もっとも、それらの事情は記録が残っていな いことも多い
でしょうから、自社の独断で判断するのではなく、契約相手にも確認を
取りな がら進めていく部分も出てくるでしょう。

この確認の際、自社と契約相手とで認識の違いがあったり、どちらもあ
いまいで覚えて いないような場合は、訴訟に発展するリスクも高まりま
す。また、取り決め自体がなされて いなかった場合もあり得ます。この
ような場合には、もともとの契約内容とは一応切り離して、今回の件を
交渉(話し合い)によって解決するという道も検討することになるでしょう。

(2)法律上の決まり
契約によって扱いが決まらない場合、理論的には法律の規定に従うこと
になります。もっとも、この決まりとは違う問題解決の仕方も、自社と
相手との交渉としてまとまれば可能 です。ただし、交渉するにしても、
相手の要求を評価するためには法律のルールを知っておくことが望
ましいといえます。そこで、法律上どのようなルールとなっているかを
確認していきます。ご質問の場合、貴社がA社に引き渡した製品
100個のうち、20個に不備があったとA社 は主張しています。A社が
「試作品より劣る」ということを理由に「不備」と判断したのであれば、
まずは、貴社のご懸念の通り、試作品を基準とすることの是非を
考えなければなり ません。

法律では、「契約に適合しない製品を引き渡した場合」、引き渡した側
(貴社)が責任を負うというルールを定めています。今回は、この「契約に
適合するかどうか」をどの基準で 判定するかが問題となっています。A社
の言うように試作品を基準とするのか、貴社の言うように製品の最低限
の性能を基準とするのか、ということです。どちらになるかは契約内容に
よって決まるため、一概には言えませんが、あらかじめ試作品を作って、
その品質に 満足していたという事情からは、「試作品と同等の製品を
引き渡す」ことが契約内容となっ ている可能性もあると考えられます。
その場合は、「試作品に及ばない品質」の製品を引き渡すことは、
「契約に適合しない」と判断されることになります。

仮に、20個が「契約に適合しない製品」だったとした場合、引き渡された
側(A社)は、引き渡した貴社に対し、120個を修理すること、2代替品の
引き渡し、3代金減額、のいずれかを求めることができます(これらでは
補えない損害が発生していれば、損害賠償請求なども可能です)。この
うち、原則は1か2で、選択は引き渡された側であるA社に基本的 には
委ねられます。ご質問の場合、A社は2を選択したということなので、
貴社はこれに 応じて、20個につき代替品を引き渡すというのが法律に
従った流れです。

ただし、貴社が金銭による解決を望むのであれば、それをA社に伝えて
交渉する余地はあるでしょう。というのも、選択肢3は、基本的に、引き
渡された側が1や2を請求しても 実行されない場合の手段として定め
られています。そのため、代替品の納品に貴社が応じなければ、A社
は法律的には3の手段をとることになり、結局金銭解決するのと同じと
なるからです。

ここまでの解説はあくまで一般論に基づいた一例であり、実際には事案
の内容によって とるべき手段も結論も変わってきます。そのため、
可能な限り交渉によって双方が納得す る解決を図ることが望ましい
といえます。特に、今後も取引を継続していくのであれば、関 係性を
悪化させることは得策とはいえません。必要であれば弁護士にも相談
しつつ、慎重 に対応することが肝要といえます。